Takeshi Uemura, MD植村 健司

Assistant Professor of Medicine
Division of Geriatrics and Palliative Medicine
Icahn School of Medicine at Mount Sinai

海外での研修歴
内科レジデンシー:Mount Sinai Beth Israel, NYC, USA
老年医学・緩和医療フェローシップ:Icahn School of Medicine at Mount Sinai, NYC, USA
  1. バイタルトークとの出会い

    バイタルトーク(VT)との出会いは僕がニューヨークで内科レジデントをしている時でした。マウントサイナイ医科大学から派遣されてきた緩和ケア指導医のもとで緩和ケアのローテーションを行ったのですが、その彼女のコミュニケーション能力は桁違いに高く、今まで見たどの医師のそれとも違っていました。出会って間もない重病患者や家族から即座に信頼を取り付け、心を開いた患者は涙を流しました。怒っていた患者家族も彼女と話すとたちどころに怒りが収まりました。それはまるで魔法を見ているようでした。そうです。彼女はVTによってトレーニングされていたのです。どうしたら彼女のようになれるのかと訪ねた私に対して、彼女はVTの教科書『Mastering communication with seriously ill patients』を勧めてくれました。早速購入し読んでみると、今まで聞いたこともないようなコミュニケーションに関するアドバイスであふれていました。さらにその後、マウントサイナイ医科大学の老年・緩和ケアフェローになることができ、そこで実際にVTのトレーニングを受ける機会にも恵まれました。
  2. バイタルトークによってどのように自分のコミュニケーションが変わったか

    重い病状の患者さんや家族と治療のゴール(goals of care)を話し合わなければいけない機会は内科レジデントの時にも沢山あったのですが、僕は本当にそのような話が苦手でした。どうやって話したらいいのか全く分からなかったですし、それが更に英語なんですから、文字通り恐怖でしかありませんでした。そのような話を避けるようにしていましたし、出来るだけアメリカ人のインターン(後輩)にその責任を押し付けるようにしていました(笑)。しかしVTの教科書を読んでから、少しずつどうやって話をしたらいいのかがわかるようになり、恐怖感も薄れていきました。そしてフェローになり、VTを受けてからは更に自信が付きました。今では沢山経験も積んでいますし、全く苦手意識はありません。むしろ積極的にそのような話をするようになりました。以前はそのような話し合いの最中に頭が真っ白になってしまい、何を言ったらいいのか分からなくなることがよくあったのですが、今では話の全体像が見えるようになり、冷静に話し合いができるようになりました。他の医師や看護師からも、こじれたケースで相談されることが多くありますが、僕が話し合いに入るとすんなりと話がまとまるので皆に驚かれます。それに、以前は患者さんや家族と衝突することが度々あったのですが、VTのスキルをマスターしてからは全くそのような衝突はなくなりました。また初対面の患者や家族とも、瞬時にラポール(信頼関係)を築けるようになりましたし、患者・家族・他の医療者からの評判もものすごく良くなったように思います(自分でいうのもなんですが)。
  3. かんわとーくを始めた理由

    VTの教えている内容は、日本では全く見たことも聞いたこともないようなものばかりです。僕は日本でも臨床をやっていましたから、日本でもVTが役に立つという確信がありました。というのも、治療のゴールが話し合われていないがために、本当に受けたいとも思っていない侵襲的な治療を受けさせられている患者を、僕は日本で沢山みてきたからです。そして日本の多くの現場では、治療のゴールに関する話し合いが行われてすらいないこと、そしてその話し合いのために必要なスキルが教えられていないことも知っていました(実際に僕がそうだったんですから)。僕はVTを日本にいる間に受けていたら、きっと全く違う医療を提供していただろうと思う自分の患者さんが沢山います。僕はそのような方々に申し訳ないと思いますし、そのような患者さんを一人でも減らしたいと思っています。だからこそVTを日本で広めたいと思いました。その思いからまずはVTの教科書を翻訳・出版しました(『米国緩和ケアに学ぶ医療コミュニケーションの極意』中外医学社)。するとその出版を機に同じような思いを持った仲間に出会うことができ、今の6人でVT日本版を作ろうという話になりました。
  4. 日本の医療者に伝えたいこと

    抗がん剤が効かなくなっている患者、ICUにずっと入院したまま回復の兆しが見えない患者、透析で有害事象が沢山おきている患者など、治療のゴールを話し合わなければならない場面は沢山あります。それはどの国でも同じことです。そのような話し合いが難しいことも同じです。そして僕はその難しさをよく知っています。だからこそ、あなたは一人じゃないと言いたいです。僕も怖くて、出来るだけそのような話し合いを避けていました。でも、その恐怖は取り除くことができます。そのような話し合いのために必要なコミュニケーション技術を身につけるのです。そして、その技術は習うことができるスキルなのです。VTを通じてその技術を学び、苦手意識を克服してください。そうすることで医療者であるあなたがハッピーになりますし、多くの患者・家族を救うことに繋がります。そしてそのようなコミュニケーション技術をきちんと身につけた医療者が日本で増えることによって、日本の医療はよりよい形になっていくと信じています。

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